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転移魔法の転移距離における魔道具の相互効果

フリードリヒ・ジンガー

要 旨 昨今の技術革新による魔道具のサイズ縮小化は,複数魔道具を一度に使用することを可能とした。二つの魔道具を同時に利用することにより,魔道具による人間の能力の拡張量が増加するという仮説のもと,転移魔法における転移距離が,二つの魔道具を併用することにより,どう変化するのかを測定した。その結果,GLT型魔道具とCRN型魔道具を同時に使用した場合,GLT型魔道具を単独使用した時に比べ,転移魔法の転移距離が有意に長くなる一方,他の魔道具との組み合わせでは有意差は見られず,組み合わせる魔道具により,効果が異なることがわかった。

1.はじめに

 12世紀後半から13世紀にかけて飛躍的な発展を遂げた紋章学から生まれた魔道具(国立紋章学研究所,1745)は,我々の日常生活のあらゆる場面で活用されている。かねてより,複数の魔道具が人間の能力に与える影響に関しての理論や仮説は存在していたが(デューら,1710; スキナー & マクミラン,1732),いずれも複数の魔道具を同時に制御することができないという物理的な制限のため,実験で確認することがこれまで不可能だった。

一方,近年,魔道具のサイズ縮小化のための研究と技術革新が進み,ついにはいくつかの魔道具については指輪サイズへの変換が可能となった(フォン=ヌーヴェル & マクスウェル,1752)。この研究は,多くの人が複数の魔道具を同時使用することができる可能性を広げるとともに,複数魔道具による人間への影響をより信頼性のある方法で検討する手段を提供することになった。

 本論文では,デューらの魔道具の相互作用に関する理論(デューら,1710)から「複数の魔道具の相互作用により,単一の魔道具のみを利用する時よりも強い効力を発揮可能となる」という仮説を立て,二つの異なる魔道具を同時利用した際の,転移魔法における物質の転移距離を測定することで,魔道具の相互作用について明らかにすることにする。

2.方 法

 現在25歳から47歳までの被験者24名を4つのグループに分け実験を行った。実験の安全確保および,被験者の技能を一定以上の水準に保つため,被験者は全員,過去2年以内に魔法技術者資格認定協会による「転移魔法使用資格者試験」に合格した経歴がある魔法技術者とした。被験者は,GLT型魔道具に加えグループごとに割り振られたCTH型魔道具,LMN型魔道具,CRN型魔道具,または統制条件として指輪型魔道具のチップ部分を取り除いて機能を失わせたもの(いずれもヴァレンティン製作所製)のいずれかを装着した。ベースの魔道具をGLT型としたのは,この魔道具が現在魔法使用資格者に最も多く使われている魔道具であるためである(エドマンド総合研究所,1752)。また,組み合わせる魔道具の型は,現在指輪型として存在する全種類を選択した(フォン=ヌーヴェルら,1752)。被験者は各グループにランダムに割り当てられ,またプラシーボ効果を防ぐために,装着した魔道具の種類についての情報は教えられなかった。

 魔道具の相互作用の計測は,転移魔法を用いた物質の転送可能距離を測定することにより実施する。転移魔法の転送可能距離は,術者の能力に比例することが知られており,兼ねてより安定的な測定方法が確立されている(ウィリアムズ,1732)ためである。詳細な測定方法,距離測定器,転移に使う標準移動物質は,転移魔法使用資格試験で使われる方法(魔法使用資格協会,1740)に準じた。また,計測したデータの統計解析には,fodR(version 5.2.1093; fodR Foundation製)を用いた。

3.結 果

 各グループの転移可能距離の平均および標準偏差を表1に示す。統制群はGLT型が魔道具のみを装着した統制条件群を,その他はGLT型魔道具とともに装着した魔道具型を示す。

table1.png

 複数魔道具道具の組み合わせにより,転移魔法の転移可能距離が異なるか,対応のない一元配置分散分析によって検討したところ,グループ間には有意な差が見られた(F(3,20) = 9.481, p < .001)。また,テューキーの多重比較を行ったところ,CRN併用群と統制群間,CRN併用群とLMN併用群間,およびLMN併用群とCTH併用群間で,それぞれ有意な差が見られた(表2)

table2.png

4.考察
 本実験により,複数の魔道具を同時に使用した場合に,転移魔法の転移距離が有意に増加することが示された。ただし,表2にあるように,すべての魔道具の組み合わせで,転移距離の増加に効果があったわけではなかった。特に,LMN型との併用の場合は,有意な差はないものの,GLT型魔道具単独で利用した場合によりも転移距離が短くなる傾向があり,また統制群との間には有意な差が認められなかったCTH型併用群と比べた場合に有意な差が見られた。CTH型,LMN型のいずれも,人間の魔法能力に良い影響を与える魔道具であるため(国立紋章学研究所,1745)この結果は非常に興味深いものである。これは同系統の魔道具でも相互作用により,魔道具の効果を一部抑制する可能性を示唆する。この研究が進めば,例えば筋力増強の効果が高いが,力の調整が難しくなるBLD型魔道具(国立紋章学研究所,1745)において、その長所を残しつつ欠点を補い,今まで活用が難しかった介護分野などへの活用も可能になる可能がある。
 また特筆すべきは,本来は魔法能力への影響はないとされていたCRN型魔道具(国立紋章学研究所,1745)と併用した時に,他の多くの魔道具の組み合わせよりも高い効果が見られたところである。これはつまり,魔道具の相互効果は,現在の各魔道具の一般的な使用分野の枠を超えた影響を及ぼす可能性があることを示唆している。

5.謝辞
 本論文執筆にあたり,ヴァレンティン製作所には指輪型魔道具をご提供いただいた。また,被験者の募集にあたり,魔法使用資格協会のA マクシミリアン氏には多大なご協力をいただいた。この場をお借りして,心より感謝を申し上げる。

6.引用文献
エドマンド総合研究所 1752『魔道具統計(1752年版)』エドマンド学術出版社
デュー L,ペリエ O,ルグラン J 1710「魔道具の相互作用に関する考察」『紋章と魔道具』443号,p122-139
国立紋章学研究所 1745『紋章学の歴史と魔道具の変遷 第4版』エッサー出版
魔法使用資格協会 1740『転移魔法資格試験の手引き』魔法使用資格協会
スキナー K,マクミラン I 1732「FRD型魔道具によるGTE型魔道具の機能増幅の可能性」『紋章学研究』1256号,p13-18
フォン=ヌーヴェル M,マクスウェル B 1752「指輪型魔道具とその活用」『魔道具ジャーナル』720号,p25-39
ウィリアムズ C 1732『白魔法概論 第4版』フェルディア魔法大学出版社

作成者:アスラン様( twitter  /  Pixiv

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