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寒冷地向け小麦新品種デイム・ガラテアの育成

アラン・ボウローグ

要 旨 冷地向け小麦デイム・ガラテアは1738年にガルグマク農業大学農学部農学科農作物研究部(ガラテアキャンパス内)において主に寒冷地でのより良質な収穫のための品質改良を目的に「レディ・イングリット35」を母,「フレスベルグ特種1022」を父として人工交配を行った品種から育成された品種である。

本品種はこれまでのガラテア地方で主力であった清廉の騎士ことイングリット=ブランドル=ガラテアが育成に注力したことで有名な「マダム・ガラテア」よりもやや早生で収穫量はほぼ同等である。生地の伸張抵抗・タンパク質含有量共に「マダム・ガラテア」よりやや高く製パン特性の一層優れた小麦であることから,本品種の栽培により近年の他国のパン食ブームによる小麦輸出量増大に対応できるガラテア地方産小麦生産の品質向上が図られることが期待される。

1.背景

 近年,周辺諸国での空前のブルゼンブームにはじまったパン食ブームに伴い輸出用小麦の需要が高まっている。ガラテア地方での小麦栽培面積33.8%(1749年度)を占める硬質小麦「マダム・ガラテア」は過去の歴史からガラテア地方の寒冷地向けに安定供給を目的としたものだが,現在はガラテア産穀物の重要輸出品目の一つとなっている。しかし,少ない作付け面積での大量生産と寒冷地向けを優先するあまりその品質には課題が残ったままだった。輸出用としてより高品質の小麦を安定供給させることによってガラテア産小麦の品質向上と今後のより一層の輸出用小麦の需要が期待される。

2.育成目標

 国内小麦生産の主力であるグロンダーズ地方では国内外向けにパン用小麦「フレスベルグの乙女」や「ミナミノカゼ」が栽培されている。いずれも製パン特製に優れ,その品質は国内での需要に長い年月にわたって応えている。また温暖な地域特性を生かした二期作を行っていることから輸出用の小麦生産にも対応していた。しかし,近年の輸出用小麦の需要の高まりは目を見張るものがあり今後も生産量を増やしていく必要がある。そこでグロンダーズ地方以外の地域での輸出用小麦生産を検討しそれに耐えうる品種「デイム・ガラテア」の育成を行った。

 寒冷地体制があることは必須だが,製パン特製としての目標水準は「フレスベルグの乙女」と同等程度と定めた。

2.育成内容

 「デイム・ガラテア」は寒冷地ガラテアにおける初の輸出に耐えうる品質の小麦である。1738年にガラテア地方農業試験支部と共同でガルグマク農業大学農学部農学科農作物研究部がガラテアキャンパスにおいて,早生・耐雪性“強”の「レディ・イングリット35」を母,やや早生・耐雪性“やや難”の「フレスベルグ特種1022」を父として人工交配を行い(表1),以降固定を図ってきたものである。

 小規模生産力試験,各種特性検定試験を経て1749年に旧ファーガス地方優良品種に認定され1750年に「デイム・ガラテア」の名前で登録された。

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3.特性の概要

3.1. 形態的特性

叢性は“直立”,株の開閉は“やや閉”である。稈長は「フレスベルグ特種1022」よりやや短い。ふの色は赤褐色で粒形は中(表2)。

3.2.生態的特性

耐倒伏性はいずれも同程度の“強”である。耐雪性は「レディ・イングリット23」にやや劣り“やや強”(表2)。

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3.3.収量

 育成地の標準栽培では子実重は「マダム・ガラテア」対比96~105%と同程度である。旧ファーガス地方3ヵ所の農業試験場で行った推奨品種決定基本調査結果では「マダム・ガラテア」対比で99~105%と同程度である。

4.品質

 製粉特性は製粉歩留,ミリングスコア共に「マダム・ガラテア」より優れ「フレスベルグの乙女」と同程度である。一般成分分析の結果は表3に記した。たんぱく質量,グルテン量,アミロース,マルトース価等いずれも「フレスベルグの乙女」とほぼ同等かやや劣るが「マダム・ガラテア」よりたんぱく質量は大きく増加しており,小麦粉中の損傷デンプン量を表す指標であるマルトース価も「マダム・ガラテア」と比べて大きく下回っていることから製パン特製として申し分ない数値と考える。

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5.栽培適地及び栽培上の注意点

 「デイム・ガラテア」の普及見込み地帯はガラテア地方である。

 栽培上の注意として現在ガラテア地方で主力である「マダム・ガラテア」に比べ耐倒れ伏性は同等だが過繁茂になると倒伏の危険性がやや高い。適切な追肥などの管理を行う必要がある。

 耐雪性も“やや強”と寒冷地向けではあるがガラテアで数年に一度のペースでみられる季節外れの大豪雪には注意が必要。

6.結論

 新品種「デイム・ガラテア」の品質はガラテア地方で長らくの間主力として育成してきた「マダム・ガラテア」に比べ大きく改善が見られた。現在国内外に製パン用として問題なく流通している「フレスベルグの乙女」と比べてもほぼ近しい水準に達しており,これはガラテア地方で大きな農業改革がおこなわれて以来およそ567年の記録を確認しても過去最高水準である。

 寒雪害による収穫量の大きな変化は現状見られていないがガラテアという地域特性上,数十年に一度の飢饉への対策に注視する必要がある。現在国立気象局では今後10年以内にガラテア地方で大規模な天候災害が起こると発表していることからも,従来の災害に耐え抜いてきた「マダム・ガラテア」から「デイム・ガラテア」への作付変更を不安視する声もあげられているなか,より一層の精査が必要と考えるが,品質は間違いなく「デイム・ガラテア」である。地域住人の豊かな食生活と国外輸出というチャンスを逃さないためにも今後の「デイム・ガラテア」の広い活用方法検討が必要と考える。

<参照文献>

トリス・ウエザー『ファーガス地方1720年猛暑による農作物の被害報告書』ガラテア農業研究センタ研究資料,1735年

ホワイト・ビア『ガラテア小麦の需要者ニーズと生産対応』ガラテア農業研究センタ研究資料

『旧ファーガス地方における小麦の品質品種早期開発プロジェクト集』ガルグ=マク中央農業試験場合同セミナー収録集

『旧ファーガス地方過去200年の天候調査と繰り返される転向災害の関連性について』ガルグ=マク国立気象局

作成者:Alan様( twitter

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